不明して、最近まで私は丸山豊(1915~1989)という人を知らなかった。医師・詩人で、戦争散文集という副題が付いた『月白(つきしろ)の道』(中公文庫)の作者である。これまで大岡昇平の『レイテ戦記』や江崎誠致の『ルソンの谷間』、伊藤桂一『蛍の河』など、太平洋戦争に従軍した兵士たちを描いた名作を読んではいる。そして、丸山のこの本は、この3冊に劣らない戦記文学といえる。泥寧の道を2000キロも苦難の敗走をした記録は、私たち戦争を知らない世代に戦争のむごたらさ、無残さを訴えているのだ。 福岡県で生まれた丸山は、九州医学専門学校(現・久留米大学医学部)を卒業後、陸軍の軍医として中国・フィリピン・ビルマ…