(本作品のほか、江戸川乱歩の短編小説数編について、内容に立ち入っています。) 江戸川乱歩の連載小説といえば、「陰獣」と「パノラマ島奇談」が双璧ということになるだろう。 いずれも文庫本で100頁を少し越えるくらいの長さで、現代の標準でいえば、どちらも中編小説である。しかし、乱歩自身のとらえ方では、「陰獣」は中編だが、「パノラマ島」は長編だったようだ。自身、そう書いているし、最初の平凡社から出た全集でも、後者は「長編」扱いされている[i]。これは、「陰獣」は三か月にわたって分載されたとはいえ、ひと息に書いて編集に渡したもので、乱歩にとっては書き下ろし小説であったこと。一方、「パノラマ島」は、半年以…