(本書の犯人等の内容を明かしていますので、ご注意ください。) 江戸川乱歩の『吸血鬼』(1930-31年)には、吸血鬼は出てこない。九割方読み終わった(言うまでもないが、再読)あたりで、ふと思ったのが、何でこの小説は「吸血鬼」という題名だったのだろうということであった。そう思ったとたんに、出てきました。犯人を指して「鬼だ。人外の吸血鬼だ」[i]というのだが、確かに吸血鬼は人外で、そんなことは言われずともわかるという揚げ足取りはともかく、言い方がまた乱歩らしくてうれしくなる。しかし、本書の犯人に「吸血鬼」という形容は、果たしてふさわしいだろうか[ii]。血を吸わないのは当然だが、それほどおしゃれで…