(本作の内容について詳しく触れていますので、未読の方は、ご注意ください。) 『猟奇の果』といえば、大内茂男が江戸川乱歩長編小説論「華麗なユートピア」において、「乱歩の長編諸作中でも、最大の珍作である」[i]と評したように、短編小説に比べ評価の低い乱歩長編にあっても、失敗作といえば、(『吸血鬼』か)これ、と必ず名指しされるほどの作品である。作者までが「私の多くの長編の中でも、・・・珍妙な作品である」[ii]と、潔く認めている。 連載されたのが博文館発行の『文藝倶楽部』で、編集長が横溝正史というのも、今思うと豪華な組み合わせだが、顔がそっくりの別人が方々に現れる、いかにも乱歩が好きそうな怪異譚的発…