(本書の犯人のほか、モーリス・ルブランの『813』、E・フィルポッツの『赤毛のレドメイン家』の内容を部分的に明らかにしています。) 久しぶりに『蜘蛛男』(1929-30年)を読んだ。創元推理文庫から出た、連載時の挿絵入りの本[i]で、買ったものの、そのままほったらかしていた。 いやあ~、面白い。無論、筋は熟知しているのだが、それでも面白い。巻頭、いきなり稲垣平造こと「蜘蛛男」が登場する場面からして、来た来た、とわくわくさせる。いったい、この尋常でない面白さは、何によるのか。よく言われるのは、あの、なんとも独特な江戸川乱歩の文体である。確かに、落語のようにわかりきった話を、それでも面白く聞かせる…