ふる里を 峯の霞《かすみ》は 隔つれど 眺《なが》むる空は同じ雲井か 総てのものが寂しく悲しく見られた。 隠栖《いんせい》の場所は行平《ゆきひら》が 「藻塩《もしほ》垂《た》れつつ侘《わ》ぶと答へよ」 と歌って住んでいた所に近くて、 海岸からはややはいったあたりで、 きわめて寂しい山の中である。 めぐらせた垣根も 見馴《みな》れぬ珍しい物に源氏は思った。 茅葺《かやぶ》きの家であって、 それに葦《あし》葺きの廊にあたるような建物が続けられた 風流な住居《すまい》になっていた。 都会の家とは全然変わったこの趣も、 ただの旅にとどまる家であったなら きっとおもしろく思われるに違いないと 平生の趣味…