消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし わが身それとも 思ほえぬ世に 前斎宮〈六条御息所の娘〉は、 灰色の紙の薫香をしませたものに 目立たぬようにお返事をお書きになった (源氏の君に by 前斎宮) 〜消えそうになく生きていますのが 悲しく思われます 毎日涙に暮れて わが身がわが身とも思われません世の中に 【第14帖 澪標 みおつくし】 宮は返事を書きにくく思召したのであるが、 「われわれから御挨拶をいたしますのは失礼でございますから」 と女房たちがお責めするので、 灰色の紙の薫香《くんこう》のにおいを染ませた艶《えん》なのへ、 目だたぬような書き方にして、 消えがてに ふるぞ悲しき かきくらし…