かつて学恩を受けた本だ。その後、再読した憶えはないのだけれども。 片岡良一は、日本近代文学をアカデミズムの立場・態度・手法によって取扱った第一世代の研究者のひとりと、今日では位置づけられてあるようだ。無手勝流体当りで本に対していた学生には、さようなことを思う余裕も力量もなかった。『近代派文學の輪廓』(白楊社、1950)という書名に惹かれて古書店の棚から抜出し、目次を繰ってみて、横光利一および新感覚派について書いてあると判り、躊躇なく買ったのだった。 今からは想像すらできまいが、横光について冷静に知るのはそうとうに難しい時代だった。『定本 横光利一全集』(河出書房新社)が刊行されるのは、ずっと後…