真夏の到来と共に、ミカンの木が蝉の 歌の舞台となった。この世に生を受けて、 蝉によっては5年以上の 「臥竜の思い」、 やっと地上に出る思いは はればれと。木々の間に響き渡る蝉の声は、 まるで真夏の始まりを告げるベルの 音のようだった。しかし、この夏のミカンは全滅 という予期しない道を歩んでしまった。 だがこの木は蝉にとっては、歌を奏でる 劇場の役割をはたした。この木に、張り付いた蝉の殻は、 明らかに生への旅立ちを意味していた。ミカンの実は一つも成らず、人間には 約にはたたないのだが、蝉にすれば、 これほど大事な舞台はない。ミカンの木は、まるで蝉たちの巣立ちを 手伝うために存在していたかのようだ…