これまで13回に渡って,『歯車』の主人公が暗い瞼の裏に幻視した「銀色の翼」が賢治の夜空に幻視した「暗い業の花びら」と同種のものかどうか比較検討してきた。比較項目は1)幻視したものとその正体,2)罪とその理由,3)罰と罰したもの,4)罰したものの正体,5)敗北の文学についてである。結果をまとめたものを表とともに以下に示す。 1.幻視したものとその正体 『歯車』(1927)の主人公〈僕〉は「歯車」を暗い瞼の裏に幻視したあと,頭痛と一緒に「1つ」の「銀色の羽根を鱗のやうに畳んだ翼」(銀色の翼)を幻視し,「僕の一生の中でも最も恐ろしい経験だった」と語る。多分,〈僕〉はこの「銀色の翼」の「銀」は「銀貨」…