*愛蔵版(実業之日本社)の表紙。橋の上で思うのは、運命の岐路で背を向けてしまった、もう1つの人生か。 6 約束 (萬年稿) 幸助は鋳(かざり)師での8年に及ぶ年季奉公がようやく明けると、まっさきに幼馴染みのお蝶に会いに、萬年橋に行く。お蝶は5年前に突然幸助の奉公先に現れて、引っ越しするので別れを告げていた。幸助はお蝶とそのまま別れがたく、5年後の七つ半(午後5時)に萬年橋で会う約束をしていた。以降幸助はお蝶のことを片時も忘れることはなく、懐にはお蝶のために作った箸を忍ばせていた。 しかし幸助は5年の間に、ちょっとした隙に別の女と関係を持ってしまっていた。幸助は橋が見渡せる河辺からそっとお蝶を探…