芥川の切支丹物である『るしへる』(1918)に「七つの恐しき罪に人間を誘さそう力あり,一に驕慢(きょうまん),二に憤怒(ふんぬ),三に嫉妬(しっと),四に貪望(とんもう),五に色欲,六に餮饕(てっとう),七に懈怠(けたい),一つとして堕獄の悪趣たらざるものなし。」(青空文庫)とある。人間を誘う罪を7つあげ,その1番に「驕慢」を挙げている。これは,戦国武将の多胡辰敬が書き残した家訓(『辰敬家訓』)の1つである「身持ちが身の程を超えれば天罰を蒙る」と同じであろう。「身持ち」とは日常の身の処し方のことである。この教訓を和辻哲郎(2024)は「埋もれた日本」というエッセイで「これはギリシャ人などが極力…