旅人の喜び:庄野潤三 1956年(昭31)6月~1957年(昭32)3月、雑誌「知性」連載。 1963年(昭38)河出書房新社刊、Kawade paper backs, 28 戦中期の女学生の体験を思い出しながら、戦後の復興期を一家庭の主婦として生きる貞子の目を通して綴られる日常風景。平板で、ごく当たり前の些事を淡々と日記のように記録している。これをわざわざ小説本として読まなくてもいいような気にもなる。これが人生の真相であると言うなら、人は人生という旅をする人であり、そのちっぽけな喜びこそが生きる喜びなのだ、ということになる。戦後を小児として育った者として、金も物もまだ不十分だった時代のほのか…