1912‐1986。歴史学者。 1937年東京帝国大学国史学科卒業。1948年法政大学法学部教授、のち名誉教授。 「国民的歴史学運動」を提唱した。その運動は歴史学徒の卵たちが象牙の塔を出て労働者・農民の闘争と連帯する中で新しい歴史学を形成しようとするものだったが、党派の「政治」に引き回されるようにして挫折していった。
2006年8月10日初版発行 裏表紙「著者から読者へ いま、叙情が危ない。われわれのこころの世界が乾き上がり、砂漠化しているのではないか。叙情を受け容れる器が損傷し、水漏れをおこしているからではないか。叙情とは、万葉以来の生命のリズムのことだ。魂の躍動をうながし、日常の言葉を詩の形に結晶させる泉のことだ。それが枯渇し危機に瀕しているのは、時代が平板な散文世界に埋没してしまっているからである。歌の調べが衰弱し、その固有のリズムを喪失しているからだ。いまこそ、『歌』の精神を取り戻すときではないか。」 目次 第1章 空を飛ばなくなった歌―美空ひばりと尾崎豊 第2章 「短歌的抒情」の否定と救済―小野十…
特集「日本古代国家形成史研究の最前線」 ◆国家形成史研究の歩み(森田喜久男*1) (内容紹介) 特集の総論的な内容。 ・藤間生大*2『日本古代国家』(1946年、伊藤書店) ・石母田正*3『日本の古代国家』(1971年、岩波書店→後に岩波文庫) ・吉田晶*4『日本古代国家成立史論』(1973年、東京大学出版会) ・都出比呂志*5『前方後円墳と社会』(2005年、塙書房) ・広瀬和雄*6『前方後円墳国家』(2003年、角川選書→2017年、中公文庫)、『古墳時代政治構造の研究』(2007年、塙書房) ・寺沢薫 『弥生時代国家形成史論』(2017年、吉川弘文館)、『弥生国家論』(2021年、敬文舎…
自分の2024年を振り返ると、悉く失望の年であった。男性性、女性性、そして共産党への失望である。年の瀬にして、またも心を折られることがあったので書き捨てておく。 男性性への失望 男性性に対しては、随分と昔から失望していた。何を「男性性」とするかは難しい問題だが、差し当たり、現在の社会で形成さる、主たる男性像としておく。 男性として、男性と接してきて感じてしまうのは、「男性性とは加害性」ということである(身体的にも精神的にも)。どうしてこんなことを言えるのか、と問いたくなることがあまりに多過ぎた。 高校生の頃に頻繁に聞いた会話は、SNSノリのフェミニズム叩き、高齢者叩き、宗教叩き、排外主義、障害…
数年前からやっている〈マルクス入門読書会〉で網野善彦『日本中世の非農業民と天皇』(岩波文庫)を読み終えたので、その記録を残す。この読書会は、日本中世史を研究している友人とふたりで行っている会で、マルクス主義史学の再検討のためにマルクス研究を学ぼうという趣旨で始めたものである。未だその目標にはほど遠いが、目下の研究に直接関わるものでもないので、地道に続けていきたい。 これまで読んできた書籍は以下である。 マルクス「資本制生産に先行する諸形態」『マルクス・コレクション3』収録(筑摩書房) 佐々木隆治『カール・マルクス:「資本主義」と戦った社会思想家』(ちくま新書) 佐々木隆治『新版 マルクスの物象…
書評めいたものです。私はド素人ですので間違いが多数あると思いますがご容赦ください。(予防線) 楊力「母親の歴史を書く(书写母亲的历史 ———二战后日本国民历史学运动与妇女史的实践)」『華中師範大学学報(人文社会科学版)』第63巻第4期、2024年7月。 本論文は、戦後1950年代に繰り広げられた国民的歴史学運動から、その重要部分をなした女性についての歴史を描くという行為を考察し、現代の女性史研究の忘れられたルーツを探求したものである。国民的歴史学運動そのものは、理論的部分を疎かにし、現実に没入するあまり学問の自律性を危うくしたと批判され、マルクス主義史学の退潮と共に忘却されていったと筆者も述べ…
2024年11月30日時点での既刊のちくま学芸文庫全2,077点(セット版を除く)をあげた。文庫の整理番号順に従って表記(一部変更あり)した。「♾️」マークはMath&Scienceシリーズ(青背)を示す。人名表記の揺れ(例「シモーヌ・ヴェイユ」と「シモーヌ・ヴェーユ」)は訳者に従い、統一はせずそのままにした。編者、訳者は一部を除き割愛し、編著者が3人以上に及ぶ場合は代表者1人の名前のみ記した。 Math&Scienceシリーズのみの刊行書目一覧はこちら→ちくま学芸文庫M&S刊行書目一覧 最新版 - karumerabunkoのブログ 浅田彰『ヘルメスの音楽』 赤坂憲雄『異人論序説』 赤坂憲雄…
石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon神話と文学 (岩波現代文庫 学術 5)作者:石母田 正岩波書店Amazon承前*1磯前順一『石母田正 暗黒のなかで目をみひらき』から、石母田正の論文「古代貴族の英雄時代――古事記の一考察」(「英雄時代論文」)について。「英雄時代論文」の目的は何だったのか? 「何故、国民が天皇制という歴史的権威に服したがるのか」ということ、つまり「主体性を失った理由」の「解明」である(p.184)。(天皇の)「「専制君主的側面」の発生期の特定」という仕方で、それは「第三章 英雄時代の背景について」において試みられ…
承前*1石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon神話と文学 (岩波現代文庫 学術 5)作者:石母田 正岩波書店Amazon磯前順一『石母田正 暗黒のなかで目をみひらき』から、石母田正の論文「古代貴族の英雄時代――古事記の一考察」(「英雄時代論文」)について。「英雄時代論文」「第二章の後半では共同体のあり方」が論じられる。「諸豪族による国内制服と朝鮮進出、および巨大古墳にみられる民衆的要素と支配者的要素の並存から、四・五世紀の豪族が国家形成への戦闘にあけくれる一方で、その共同体の内部は十分に分化しておらず、族長権力は支配者的ではあると同…
承前*1石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon神話と文学 (岩波現代文庫 学術 5)作者:石母田 正岩波書店Amazon石母田正の論文「古代貴族の英雄時代――古事記の一考察」について。但し、ここではオリジナルのテクストよりも、『石母田正 暗黒のなかで目をみひらき』における磯前順一氏の紹介・読解にフォーカスする。 英雄時代論文は、四つの章に「はしがき」「結語」をくわえた、六つの部分より構成されている。まず、「はしがき」においてこの論文の目的と方法論的前提が手辞され、それをうけたかたちで、「第一章 叙事詩と英雄時代」でその根幹をなすヘー…
手嶋大侑さんから『日本の古代とは何か―最新研究でわかった奈良時代と平安時代の実像』(有富純也編 光文社新書)が送られてきたので、読んでみました。 編者の「はじめに」の後、1奈良時代の国家権力は誰の手にあったのか(十川陽一) 2藤原氏は権力者だったのか(黒須友里江) 3地方支配と郡司(磐下徹) 4変貌する国司(手嶋大侑) 5“「唐風文化」から「国風文化」へ”は成り立つのか(小塩慶)の論文が列び、最後に執筆者全員による座談会形式の「日本の古代とは何か?」という章が置かれています。 専門外ゆえ私は、まず4と5を読み、面白かったので、座談会を読みました。大抵こういう座談会は、内輪の頷き合いになってしま…
石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon神話と文学 (岩波現代文庫 学術 5)作者:石母田 正岩波書店Amazon磯前順一『石母田正 暗黒のなかで眼をみひらき』*1から。 所謂「英雄時代論争」について。 「英雄時代論争」とは、1948年に発表された石母田正の「古代貴族の英雄時代――古事記の一考察」(in 『神話と文学』)を巡って、1950年代初頭に展開された論争。 さて、この石母田が精魂を傾けた英雄時代論文によれば、原始時代末期の日本各地には民主的な共同体が割拠していたが、それらは新たに台頭してきた天皇制国家のまえに敗北していったとい…
石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon歴史と民族の発見: 歴史学の課題と方法 (平凡社ライブラリー い 25-1)作者:石母田 正平凡社Amazon磯前順一『石母田正 暗黒のなかで眼をみひらき』*1。 石母田正が戦後『歴史と民族の発見』を中心に表出した「ナショナリズム」を巡って。 当時の石母田にとって、ナショナリズム、彼の表現でいえば「民族」なる言葉とは、なによりも、自己のうちにひそむ不透明さ、知識人のもつ合理性の限界を知らしめるものであった。彼がたびたび指摘している知識人のおちいりがちな限界とは、私たちが学問という言説に深くかかわ…
山田宗睦氏の訃報に接した。6月17日逝去。享年99.氏は1950年代東大出版会の編集者として活躍した。 ここに山田宗睦氏会見記(20070703)がある。山田氏が企画をたてた『近代日本の思想家』全11巻(1958-2008)の完結を前にしてインタビューをしたものである。氏の了解も得て、某誌に掲載する予定で準備したのだが、掲載されなかった。補足が必要だが、いまは、当時のままの文章を載せることで、氏を偲ぶことにする。 ーーーーーーー 山田宗睦氏会見記 070703 辻堂駅前Denny’s にて ○:山田氏 ●:竹中英俊 〇 松本三之介さんの『吉野作造』の原稿ができて「近代日本の思想家」のシリーズが…
石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon歴史と民族の発見: 歴史学の課題と方法 (平凡社ライブラリー い 25-1)作者:石母田 正平凡社Amazon磯前順一『石母田正 暗黒のなかで眼をみひらき』*1から。 石母田が1952年3月に上梓した『歴史と民族の発見』について。 戦後マルクス主義歴史学がナショナリズムという亡霊につまずいた傷痕、それが、今日、石母田正『歴史と民族の発見』に与えられた戦後思想史上の評価といえよう。石母田は、マルクス主義を信条とする立場から現実の社会変革を模索するなかで、敗戦直後から一九七〇年代初頭にかけて日本歴史…
石母田正:暗黒のなかで眼をみひらき (ミネルヴァ日本評伝選)作者:磯前順一ミネルヴァ書房Amazon磯前順一『石母田正 暗黒のなかで眼をみひらき』*1から。 当然のことながら、石母田や藤間*2の民族概念は、戦前から戦後にかけての政治体制の変化が大きな影響を与えている。大日本帝国時代の戦中には、多くの日本人はその内実である他民族国民国家を支持したが、マルクス主義者である藤間たちは当時からその批判の帰結として、津田*3と同様に単一民族国民国家を支持していた。さらに日本の敗戦を機に「民族の衰弱の危機」を強く感じるようになった藤間は、「戦ひに破れたことは必ずしも民族の滅亡を意味するものではない。然し新…