「や。……さっきの武者が」 「なに。あの群れの中に」 「見えまする。しかも、何やら佇《たたず》み合って」 犬上郡 の野路をすぎ、 不知哉《いさや》川を行くてに見出したときである。 華やかな旅装の一と群れが河原に立ちよどんで、 頻りとこっちを振向いていた。 どうします? 二の足をふむ右馬介のたじろぎも、 又太郎には眼の隅のものでもなかった。 駒脚はまっすぐにそのまま不知哉川の河原へ近づいている。 先はこっちを待っていたに違いない。 さいぜんの黒鹿毛に乗った侍は、そこの群れを一人離れて、 すぐこなたへ寄って来た。 が、前とは異なって、ていねいに。 「あいや高氏どの。 つい今ほどの失礼は、 平におゆ…