1889年(明22)駸々堂刊。作者の香川宝州は生没年など不詳。別に遠塵舎とも号した講談師だったが、これは口演の速記本ではなく、自前で書き下ろした作品ということになる。題名の「檮衣声」(とおきぬた)は唐の詩人李白の「子夜呉歌」にある《萬戸檮衣声》=多くの家から衣を檮(う)つ音が聞こえる、の句に由来する。豪商の若旦那が北野村(現大阪市西成区)にある別荘にいるのを訪ねた医者が、明治の頃にはまだ田舎で、家々から砧の(きぬた)=(洗った衣を叩く)音がしたという情景が書かれている。ここでも美貌の悪女が殺人や強盗を重ねる悪事の間に、心の隙に幽霊の恨念と感じる怪談話が挟まれているが、いかにその潜伏先を探して捕…