江戸の侍・村尾正靖(嘉陵)の江戸近郊日帰り旅の道筋を辿るシリーズ。しつこく続くが、まだまだ続く予定である。こうして東京都内の知らない町を歩いていると、いろいろな発見があって、もちろん大した発見ではないが、実に面白い。 今回は麻布から渋谷にかけての散策なので、さほど遠出というわけではない。とはいえ、文政二(1819)年八月のことで、まだ嘉陵は浜町の家に住んでいたはずだから、現代人の感覚からすれば、それなりの距離を歩いたことにはなる。 渋谷八幡宮の近くに、伊勢野というところあり、そこに法如庵と云あり、こは本郷園満寺(正しくは圓満寺)の隠居所にて、孔雀明王を祭ると云、野の見はらしよしと、とある人いへ…