『小澤征爾、兄弟と語る』(岩波書店、2022) 板垣征四郎と石原莞爾とから、一字づつ取った命名とのことだ。 小澤征爾の父開作は苦学して歯科医となったものの、五族共和の理想に燃えて満洲と北京とを往来する政治運動家だった。対立する東條英機派に敗れて家産いっさいを喪い、昭和十六年に帰国した一家は困窮生活に入る。そんな暮しにあっても父母は、四人の息子たちへの教育にだけは驚異的な努力を注いだ。他界した長男(彫刻家)を偲びながら次男(文学者)と三男(音楽家)と四男(俳優・文筆家)とが家族史を回想し合う本書は、まず両親の並はずれた教育熱心への感謝と驚嘆とから始まる。 小澤征爾が後年小林秀雄と面談したさい、開…