1933年(昭8)大日本雄弁会講談社刊。著者の高橋定敬(さだあき)は約20年間、現職の警察官として働いたようだ。大正5年頃から捜査現場の人間の視点から探偵実話を書き始めた。整然とした文体で、簡潔かつ冷静、的確に事件の推移を記述している。収録の12篇はまさに「事実は小説よりも奇なり」で、事実の奇怪さに驚かされた。ノンフィクション作品としても一定のレベルに達している。☆☆☆ 「翻案、創作の類は、興味は深いが、閃々骨を刺す鋭さがない。事実物は悄然胸を衝くの鋭さを持っているが、衣装をつけぬ人形のやうで、情味も滋味も艶味もない。事実を心として、充分に想意の衣裳をつけた本書は、その点巧みに按配されて、読ん…