生来不敵、筋金入りの荒法師であったから、 誰も取りつがぬものときめてずかずか中庭に踏みこんだ。 もとより御前の礼儀作法は知らぬ。 よし知っていたにせよ頓着する男ではない。 絃が鳴り渡る中で、 「法皇は大慈大悲の君であられる、これしきのことをお聞き入られぬはずはない」 と勧進帳を引きひろげると、 声高らかに読み始めた。 高く低く心をこめて弾かれる弦楽を圧するように、 文覚のしゃがれた太い声がひびき渡った。 「沙弥《しゃみ》文覚敬いて申す。 貴賤道俗の助成を蒙って、高雄山の霊地に一院を建立し、 現世来世安楽を願わんとする勧進の状。 それおもんみれば真如《しんにょ》は広大、衆生と仏と名を異にするとは…