ただ一人の人がいなくなっただけであるが、 家の中の光明をことごとく失ったように だれもこのごろは思っているのである。 源氏は枯れた植え込みの草の中に 竜胆《りんどう》や撫子《なでしこ》の咲いているのを見て、 折らせたのを、中将が帰ったあとで、 若君の乳母《めのと》の宰相の君を使いにして、 宮様のお居間へ持たせてやった。 草枯れの 籬《まがき》に残る 撫子を 別れし秋の 形見とぞ見る この花は比較にならないものと あなた様のお目には見えるでございましょう。 こう挨拶をさせたのである。 撫子にたとえられた幼児はほんとうに花のようであった。 宮様の涙は風の音にも木の葉より早く散るころであるから、 ま…