最近、ドストエフスキーの『死の家の記録』を読了した。 今まで読んでいた彼の作品『カラマーゾフの兄弟』や『白痴』 の中で言及されているテーマがこの作品の中に先駆けとして現れて いることに気づかされた。これは彼の書いた創作作品である。 妻を殺害して懲役囚になったゴリャンチコフの書いた監獄生活の体 験記という体裁をとっているが、文中を読み進めると、 この人物の造型は次第に鳴りをひそめ、 政治犯であったドストエフスキーの実体験が基になっていることが 明らかになってくるのである。 ルポルタージュと創作の違いについては大江健三郎が『 新しい文学のために』のなかで語っている。 文学はルポルタージュとは異なり…