ああ、胸がどきどきする。おいおい、どうした?街で奇麗なお姉さんでも見掛けたのかい?いや、まさか、もうずっと仕事部屋に引き籠ったままさ。今、私が安心できる場所は世界中でただ一つ、この仕事机の前だけだ。胸がドキドキしているのは、うん、心臓が暴れているのさ。季節の変わり目のせいなのか、それともいよいよ本格的な病気という底なし沼に深く沈み込もうとしているのか、ともかく私のこの心臓は別に元気が有り余って暴れてるってな訳じゃあない。ただ、ちょいとやけくそになっているのさ。 そういえば物の本で読んだ記憶があるが、一組の男女が一緒に怖い目に遭うと、その二人は恋に落ち易くなるとあった。怖さの「どきどき」を、意識…