一章 藍染川の流れと、見習いおはまの影 深川の冬の終わりは、藍染川の流れとともに始まるんでございます。池之端の不忍池から流れ出た水が藍染川と名を変え、綾瀬川の河口へ注ぎ込む。その澄んだ水は、江戸の染物を支える命の流れ。睦月の空気はきりりと冷たく、川霧が晴れれば空は研ぎ澄まされたように高く澄み渡る。置屋へ向かう道すがら、うちは思わず背筋を伸ばしやした。そんな折、置屋に新しく来た見習いの子、おはまの話が耳に入ったのでございます。父親は百姓で、浪人崩れの侍に因縁をつけられ無礼打ちに遭い、母親は病気がち。弟妹も多く、暮らしが立たず、身売りしてきたという。その話を聞いたとき、胡蝶姐さんの顔にふっと影が差…