預り召し出づるほど、 荒れたる門の忍ぶ草茂りて見上げられたる、 たとしへなく木暗し。 霧も深く、露けきに、 簾をさへ上げたまへれば、 御袖もいたく濡れにけり。 「まだかやうなることを慣らはざりつるを、 心尽くしなることにもありけるかな。 いにしへもかくやは人の惑ひけむ 我がまだ知らぬしののめの道 慣らひたまへりや」 とのたまふ。 女、恥ぢらひて、 「山の端の心も知らで行く月は うはの空にて影や絶えなむ 心細く」 とて、もの恐ろしうすごげに思ひたれば、 「かのさし集ひたる住まひの慣らひならむ」 と、をかしく思す。 御車入れさせて、 西の対に御座などよそふほど、 高欄に御車ひきかけて立ちたまへり。…