おもしろかった。文章がなめらかで華や かでもある、流暢な日本語というのか、 離婚を前にした現代的な話を関西の雰囲 気に馴染ませ、気持ちよく読ませる。 人形浄瑠璃(文楽)が大きく絡んでくる、 すこし見たことがあるのでわかるところ もある、それでよりよく読ませる。 結末がない、突然終わる、要のお久への 妖しい恋心はどうなるのか、もしや老人 の企みではないのか。 いままでの谷崎で一番おもしろかった。 蓼喰う虫 (新潮文庫) 作者:潤一郎, 谷崎 新潮社 Amazon
最近になって浜松の時代舎で、新居格の翻訳をもう一冊入手した。それは『近代出版史探索Ⅴ』892で書名を挙げておいたアンドレ・マロウの『熱風』で、昭和五年に『近代出版史探索Ⅱ』365などの先進社から刊行されている。 『熱風』はマロウという表記、及び「革命支那の小説」とあるキャプションからうかがわれるように、マルローの最初の翻訳である。マルローは一九二五年に中国へ渡り、共産党とコラボしていた国民党の広東政権に関わったが、二七年の上海における国民党の共産党弾圧後に帰国し、二八年広東革命を背景とする『征服者』を出版する。それが『熱風』として翻訳されたのである。 これも先の拙稿で既述しているが、マルローの…
2019年10月25日初版発行 帯封「『雪国』『金閣寺』『グレート・ギャツビー』『蓼喰う虫』『ボヴァリー夫人』『アンナ・カレーニナ』『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』…は本当にそんなにすごいのか? いくら世間で名作だ文豪だと言われていたって、つまらない時はつまらない、と言っていいのである。真の名作文学がわかる対談集」 目次 序文解説 小谷野敦 序章 第一章 『金閣寺』『仮面の告白』 三島由紀夫 「楢山節考」 深沢七郎 第二章 『グレート・ギャツビー』 F・スコット・フィッツジェラルド 『欲望という名の電車』 テネシー・ウィリアムズ 『ロリータ』 ウラジーミル・ナボコフ 第三章 『雪国』 川端康成…
イヌタデだろうか。紅とも赤紫とも断じがたい、珍しい花色だ。玄関前一帯に満開である。とはいえ人間の眼にはいっこうに目立たない。 今年は春と夏の草むしり時期が偶然効果的だったものか、地表がシダとドクダミとヤブガラシに覆い尽されてしまうということがない。ほかの小型野草にも頑張る余地がいくぶんか残されてある。これまで報われぬ孤軍奮闘を強いられてきた小声族が、控えめながらも声を上げている。 毎年この時期には咲いてきたのだろう。より長身で勢い旺盛な連中の葉陰に埋れてしまう宿命を甘受してきたのだったろう。やっと巡ってきたチャンスである。長らく機を窺って辛抱した甲斐があったというもんだ。 漢字では犬蓼だ。「蓼…
ここには、祖母が少数しか持っていなかった、日本の男性作家のうち、別に纏めている推理小説・時代小説・歴史小説に属さない作品を書いている明治生れの人物を纏めて置こう。 【谷崎潤一郎】 祖母は『源氏物語』を愛読していて、與謝野晶子・円地文子・田辺聖子・瀬戸内寂聴・橋本治などの現代語訳や創作・エッセイ、研究者による入門書を少なからず買っていたが、谷崎源氏は見掛けなかった。谷崎氏の作風が好みでなかったものか、小説なども余り目にしなかった。仮に持ち帰ったものの中に、まだ紛れているかも知れないが。 居間の隅の9段の簞笥の5段め、 ・新潮文庫891『細雪 上卷』昭和 三 十 年 十 月 三 十 日 發 行・昭…
毎朝新聞を取りに玄関に行く。 「折々のことばー鷲田清一 を読む」 毎回このコラムを読むと酷いと思う。余りにテーマが多岐にわたり私的でピンとこない。こんなコラムに原稿料を新聞社は支払っているのかと思う。うーん、なるほどと共感することも勿論あるが、、。今日の記事は面白い。 <Tastes differ. (ことわざ) 直訳すレれば「好みは人それぞれ」だが、英和辞典を引くと「蓼喰う虫も好き好き」とか「十人十色」とかある。この落差と飛躍に驚愕し、翻訳が好きになったと、翻訳家の土屋京子は言う。翻訳は言語から言語へ「跳ぶ」仕事。・・・・・駒井稔編著『私が本からもらったもの翻訳者の読書論』でのインタビューか…