437段 所衆行実のからめ取りたる盗人、北陣にて詠歌の事 承久年間のある年、某お屋敷に忍び込んだ盗人を内裏に追い込んで捕らえたことがあった。蔵人所の下級武士の行実という者が記録所付近で取り押さえた。行実はその盗人に水干用の袴に紅の衣を着せ、略奪した品々をその首にかけさせ、北陣に連行し、そこで検非違使に盗人を引き渡した。盗人を引き渡す側も受け取る側も全員武官としての正装をしており、実に物々しくも威厳のある光景だった。受け取り側である検非違使判官佐々木広綱の部下方に盗人が連行される時、盗人が「少々待ってもらいたい。言いたい事があるぞ」と言う。そして、 あふみなる鏡の山にかげみえてささきのへとてわた…