(巻二十七 :水の精、人の形になりて捕われし語より)「おお中将殿。旧越前守の屋敷に、女のあやかしが出る話はもう聞きましか?」「女のあやかし?」辰の一刻(午前七時)、内裏の宿直所(とのいどころ)に出向いた斉信の、これが開口一番の言葉だった。質問を投げかけたのが、左近少将源経房。「その顔ではまだご存知ないようですね。今、その話を皆でしていたところなんです。まま、お座りください」四人ほどが輪になって座っている中に入るよう促された。ここは蔵人所の一室、殿上人たちが宮中で宿直する部屋である。「何の話をしていたんだい?」「先日、五条高倉通りの越前守の屋敷が売りに出されたでしょう?あの屋敷をどこかの受領が買…