関白基房の家来、江大夫判官遠成 《ごうたいふはんがんとおなり》という者がいた。 日頃から平家には反感を抱いていたが、 六波羅からの追手が迫ると聞き、 息子 江左衛門尉家成《ごうさえもんのじょういえなり》 といっしょに揃って家を出た。 家を出てみたが、 結局は行く目当もなく頼る人もない二人は、 稲荷山《いなりやま》にのぼって相談の結果、 住みなれたわが家で死のうと、 再び川原坂の宿所にとって返した。 六波羅からは、 源大夫判官季貞、摂津判官盛澄らが、 武装兵三百騎を引き連れて押し寄せてきた。 江大夫は縁に立ちはだかると、 群がる敵をはったとにらみつけ、 「各々方、この場の様子、とくと六波羅に報告…