白鳥は告げぬ:藤沢桓夫 1957年(昭32)東方社刊。 (しらとりはつげぬ)京都の映画撮影所の脚本部に勤めるヒロインの筧梨花子の兄は、失恋がもとで自殺していた。その相手の男女は若手監督の宮崎と女優の笛美なのだが、彼女は何とか亡兄の復讐をしたいと思い続けている。憂いのある美貌の梨花子はふとしたことで新人女優として彼らと一緒に映画を撮ることになる。共演する男優をダシに、彼女は巧みに笛美の高慢な自尊心を傷つける行動に出る。映画の中での二人の女の対立という設定も演技に皮肉にも反映した。 単身で復讐に挑む姿は可憐さを通り越した芯の強さが見られるが、読者の心情はそこに心の弱さが現われることを期待する。監督…