源氏は夢のように尚侍へ近づいた。 昔の弘徽殿の細殿《ほそどの》の小室へ 中納言の君が導いたのである。 御修法のために御所へ出入りする人の多い時に、 こうした会合が、 自分の手で行なわれることを中納言の君は恐ろしく思った。 朝夕に見て見飽かぬ源氏と稀に見るのを得た尚侍の喜びが想像される。 女も今が青春の盛りの姿と見えた。 貴女らしい端厳さなどは欠けていたかもしれぬが、 美しくて、艶《えん》で、 若々しくて男の心を十分に惹く力があった。 もうつい夜が明けていくのではないかと思われる頃、 すぐ下の庭で、 「宿直《とのい》をいたしております」 と高い声で近衛《このえ》の下士が言った。 中少将のだれかが…