袖《そで》濡《ぬ》るる こひぢとかつは 知りながら 下《お》り立つ田子の 自《みづか》らぞ憂《う》き 源氏の例の上手な口実だとわかっていながら書いた 六条御息所の返事🪷 〜袖が濡れる恋の路と知っているのに、 泥の中に踏み込む農民のように踏み込んでしまう私、 そんな我が身が疎ましいことです。 【第9帖 葵 あおい】 この間 うち少し癒《よ》くなっていたようでした病人に またにわかに悪い様子が見えてきて 苦しんでいるのを見ながら出られないのです。 とあるのを、 例の上手な口実である、と見ながらも御息所は返事を書いた。 「袖《そで》濡《ぬ》るる こひぢとかつは 知りながら 下《お》り立つ田子の 自《…