地域雑誌「谷中・根津・千駄木」の発行元。
1992年、「地域雑誌の刊行を中心に、地域の歴史と文化を掘り起こすコミュニティ活動」で、サントリー地域文化賞を受賞。
下町の面影を深く残す東京の谷中・根津・千駄木地区、その一角に谷根千工房はある。この地域は震災や戦災を免れた多くの文化遺産が残っており、またここに暮す人々には、形なき生活文化や知恵が何代にもわたって受け継がれ、今では貴重となった手仕事を行う職人も多い。しかし、下町開発の波はこの地にも押し寄せ、数々のあたたかみのある懐かしい木造民家が消え、職人や小売商の存続も困難になりつつあった。
そんな折、こうした「有形無形の文化遺産を大事にし、より豊かなものにして次代に手渡したい」、「ここに暮す人々と地域のことを語りあい、あたたかみと節度ある近隣関係を形づくってい<場>も作りたい」といった思いが込められ、1984年9月、A5版の季刊地域雑誌「谷中・根津・千駄木」が生まれた。創刊当初からのメンバー、仰木ひろみさん、森まゆみさん、山崎範子さんは、家事や育児の合間をぬって、取材から記事執筆、編集、広告取り、販売までを行ってきた。
今では「谷根千」という呼び名も広く定着し、創刊時1000部だった発行部数も1万部となり、1999年12月には第60号を発行。近在のお年寄りや商店、路地など身近なところに題材を求め、幅広い読者に親しまれている。しかし、単なる地元のイベント情報や観光案内にとどまらず、地域の歴史や文化の掘り起こしにより重点が注がれ、いわゆるタウン雑誌ではなく地域雑誌であるといえよう。
これまでに「谷根千」ほか様々な小冊子の刊行、シンポジウム、講演会、写真展といった活動を通じて、赤レンガの東京駅保存など、地域にとって大切な歴史的環境や自然を守り、後世に伝えていくための市民運動に参加してきた。また、街の人々や地元大学の学生・研究者などで組織する「江戸のある町 上野・谷根千研究会」にも参画。「暮し班」「遊び班」「建築班」「自然班」「歴史班」に分かれて、綿密な調査・取材を行い、成果を『谷根千路地辞典』『谷中墓地掃苔録』などの[東京の地方叢書]や、市井に生きる人々の聞き書きシリーズ[確連坊文庫]として刊行。区の区画整理計画に路地をとり入れることが検討されるなど、地元住民のみならず、全国の研究者や行政関係者、さらには海外の大学図書館などからも大変に注目を集めている。英語版「谷根千」も発行され、活動に協力してくれる外国人の仲間もできた。そして、いずれはこれらを集大成した『谷根千百科事典』の刊行を夢見て、その準備は着々と進められている。
http://www.suntory.co.jp/sfnd/chiikibunka/kantou0009.html