小説家自身はきっと誰も「小説とは何か?」と考えながら小説を書いてこなかったし、いまも書いていない。いや、人から訊かれれば誰もが「小説とは何か? という問いを持ちながら書いている。」と答えはするだろうし、それは決して嘘ではないのだが、実際に小説を書く場面では、その問いは「〝小説〟という共通了解の範囲を踏み越えるにはここでどう書けばいいか?」という、作業の具体性に形を変えているはずだ。 ここで、こういう問いの形を取るということは〝小説〟というものが書く本人にはわかっているかのように響くかもしれないが、ひとまず暫定的な概念をそれにあてはめておいて実際の作業の方に専念することによって、その作業を経たこ…