父が亡くなった際の状況説明をひととおり済ませ、刑事さんは席から立ち上がった。 「まだ、お母様がいらっしゃっていませんが、お先にお会いになりますか?」 会う?会うのか・・・。 断る事も出来たのだろうが、その場にいる義務感で席を立ち、刑事さんの 後ろに続いて薄暗い廊下を歩いた。 ガラス戸を開けて駐車場へ出ると1月の冷たい風が吹き付けた。 日は既に落ちかけていて、街灯が薄ぼんやりと光っている。 駐車場の奥にある建物の1階。 刑事さんが重そうな鉄製のドアを開けると、室内から明るい光が漏れ出てきた。 部屋の中には、一台のベットと小さな祭壇が置かれていて、簡素な作りではあるけれど、厳かな空気が漂っていた。…
夕暮れの警察署は立ち入る人は無く、ひっそりとしていた。 薄暗いロビーからは、署員の人々が働く事務局の電気だけが皓々と見えた。 「すいません、土井様はいらっしゃいますか?」 母から聞いた刑事さんを尋ねると、女性に呼ばれ、1人の男性が連なった机の奥から進み出てきた。 私より一回りくらい年が上だろうか?ベテランの風格が漂っていた。 父の名前を伝えると、刑事さんは多くを語る前に、まず小部屋へと案内した。 確かに、人の死に関わる事件や事故は、ロビーで立ち話とはいかない。 部屋はとても狭く、小さなテーブルと椅子を3つ置いたらいっぱいだった。 私は身分証明証を提示し、住所や連絡先などを書類に記した。 他、こ…