昔は何を食べても、何を飲んでも、頑丈な胃袋で、そのおかげでここまで立派な体躯に成長した。「君は食うのも、飲むのも、両方イケる口だからな」と、二十代半ばに勤めた出版社の社長に言われた。「鎌倉文士は手酌主義だ」白樺派の嫡流を自認する、その社長の名言である。 三十代になると、なんとなく心身に不調を感じ始めてきた。「将来の文豪は胃弱で、神経衰弱ですよ」仕事が夜半まで長引いた時の言である。新入社員の女の子と直属の女性の上司はカラカラと笑っていたが、隣の中間管理職の中年男性は引いていた。酒を本当に覚えたのはこの頃である。 その後、仕事は様変わりしたが、魂以外は、健康そのものだった。女性の多い職場では肉体派…