すべてが齟齬した、としか言いようがない。 「一年前携へて来た三百羽の軍用鳩は本年一月から三回も実戦に応用して居るがシベリアは鷹が多いので折角通信の為めに放った鳩は途中で鷹に捕はれて了ふ」 上の記録は大正九年、ウラジオ派遣軍野戦交通部附として彼の地に在った長谷川鉦吉騎兵少佐の筆による。 一事が万事、シベリア出兵というものを、よく象徴した景色であろう。 (Wikipediaより、ウラジオ派遣軍司令部) 最初っから最後まで、とかく目算違いの連続、何もかもが噛み合わず、得たのは負債と傷ばかり。しっちゃかめっちゃか、血が血を招く無辺際の闘争の渦に絡め取られて沈み込み、足抜けさえもままならなくなったのが、…