1922年(大11)樋口隆文館刊。軽い筆致で小説を量産した江見水蔭の晩年の作品ということだが、なぜかこの作品だけはインターネットに公開されておらず、個人送信に限定していた。 物語の舞台は入間市近郊の丘陵一帯、昔朝鮮から渡来した高麗人たちが集落を構え、高麗郡と称したが、その秘宝を石塔の下に隠したという言い伝えがある。先祖からの関わりがあるそこの土地を買い占めようとする伯爵夫人と人気女優との確執、また無形倶楽部と称する有閑貴族たちの秘密結社の活動など、伝奇小説風の展開が興味を誘う。明治大正期の武蔵野鉄道(現西武線)沿線の風物描写もむしろ新鮮に思える。 心理描写の二重性、つまり自分が感じていることと…