蝮のすえ 武田泰淳 俺は日本精神の演説をした。君が言うとおり、聴き飽きるほどした。 人々はそれを信じて死んだ。 俺の若い兄弟も死んだ。奴等はもう二度と生き返らん。 生き返りはせんさ。夢枕(ゆめまくら)にもたたん。 忘れられる。 はじめはだんだんと、しまいにはキレイサッパリ、忘れられるんだ。 そういう世の中を、君はどう思う。 俺は日本精神なんかなくても生きていられる。今日も生きてる。 なくても生きていられるくせに、日本精神なき者は売国奴だと演説した俺と、 そんな俺の演説をまに受けて喜んで信じてさ、死んでしまった奴等とそれからまた、Aのような奴、君のような奴、あの女のような奴、 そんな奴等でできあ…