元禄9年3月22日。近頃、鳴海の宿に酒井河内守家来が宿泊していた。夜、座敷で大きな声がしたので、亭主が驚いて様子を窺っていた。家来は僕に言わせたところでは、持病の発作だからうつぶせになっていれば大丈夫、心配ご無用と云々。翌日皆が出発した後、座敷には乗物が忘れてあり、戸を開けてみると血まみれであった。亭主は怖くなり、急いで代官に届け出た。調べた上でこの乗物で使者を遣わし、翌日追いつき乗物を渡した。家来が言うには、実は一昨日同僚が鳴海で自殺してしまった。しかし、尾州の御領分とわかっていたので本当のことを話はしなかった。こうして乗物を遣わしていただき大儀であったと。