そらのてっぺんなんか冷たくて冷たくてまるでカチカチの灼きをかけた鋼です。 そして星がいっぱいです。けれども東の空はもう優しい桔梗の花びらのようにあやしい底光りをはじめました。 宮澤賢治童話大全/講談社/Super文庫 これは「いちょうの実」の冒頭部分ですが、とても美しい情景描写ですね。 人魚姫の海を矢車草の青と表現したアンデルセンにも近い感性です。 晩秋の明け方です。 これからいちょうの実が旅立っていこうとしています。 いちょうの実たち1粒1粒が、擬人化されて旅立つまでの情景がやさしく描かれています。実は千人もいるのですから、それはもう賑やかです。 「僕なんか落ちる途中で眼がまわらないだろうか…