「それにしても、あそこの老紳士は何を話しているのだろう。誰かが処刑されたとか」 ベルリンを貫流しているシュプレートンネルは占領された折り、一部の狂信者により、2,3週間ほど前、水浸しにされてしまったのだが、いまだ地下鉄は寸断され、乗客は歩くほかはなかった。狭い木橋を騒々しい音をたてながら乗客は、みな小走りに渡っていた。その中にひとり、厳めしい立て襟の黒いフロックコートを着た齢のいった紳士が、左右から押されながら渡っていたが、左側の男は知り合いらしかった。そして、その傍らにいた男は、色の褪せたユニフォーム姿からして除隊兵らしかった。 「それはだね、当り前のことだったのだよ。まず、訊問があってだね…