古井 説明するというのは、普通結び目をほどくことと解釈されるけれども、結び目をつくることでもあるわけですね。 大江 あなたの書き方は、確かに結び目をつくることによってなされている。いつまでもいつまでも結び目をつくってゆく。 僕は文芸時評で、古井さんの小説の締めくくりの部分を、僕だったらこう書くだろうと実例を示してみたことがあるのですが、あれはつまり僕として説明してみたんです。古井さんは結び目のつながりのあとにもう一つ結び目をつくって、最後の結び目は解けないままだけれども、最後から二番目の結び目の意味ははっきりとわかるように小説を終わっていられる。 (大江健三郎/古井由吉『文学の淵を渡る』) 朝…