『十日間の不思議』は、日本では「不思議な」運命を辿ってきた作品である。かつて、小林信彦が本書について、書評のなかで取り上げていた。少し長いが、引用しよう。 「ポケ・ミスにして三百頁以上の厚さで、登場人物は四、五人しか出ないので、さ ぞかし面白いだろうと思ってよんでいったのですが、よみ終えて呆然とするような失 敗作でした。このおよそ単純きわまる事件をクイーンのようなオツムのよろしい名探 偵が「不思議な事件だ」という方がよっぽどフシギなのですが、読了するに及んで、 わがE・クイーンがこういう小説を書いたことの方が、はるかにフシギに思われてき ました。(以下、略)」[i] パズル・ミステリとして読め…