(本書の推理やトリック、犯人のほかに、注で『Yの悲劇』のアイディアに言及しています。) ライツヴィル・シリーズが書かれた1940年代のエラリイ・クイーンの諸作品のなかで、『靴に棲む老婆』(1943年)は、ひときわ異彩を放っている。 1942年の『災厄の町』以降のライツヴィルを舞台とした長編ミステリは、『九尾の猫』を含めて、1930年代の長編に特徴的だった、あまりに理詰めな推理が抑制され、新たな特徴となった夫婦や親子の間の愛憎のドラマと推理とのバランスが意図的に測られている。 しかし、本書では、完全に30年代のパズルが復活して、とくに、決め手となる告白状の署名偽造に関する精妙な推理は、国名シリー…