(内容に触れています。) 『Zの悲劇』(1933年)は、ドルリー・レーン四部作のなかでも、ある意味、一番論議を呼んできた作品である。 『Xの悲劇』、『Yの悲劇』は、「〇幕〇場」の演劇仕立ての章構成、シェイクスピア俳優だった主人公にちなんだ舞台劇っぽい演出で、堂々たる本格ミステリという風情だったが、『Z』は一転して、一人称小説、それも妙齢の女性による手記という体裁で、従って、幾分軽くスピーディな雰囲気になった。サスペンス・ミステリのごときスタイルに変わったともいえる。 クイーンの作家としての器用さを感じさせるが、前二作に比べて、変わりすぎだろう、という気もする。このことについても様々な考察があり…