(本書の内容に触れています。) 『かくして殺人へ』(1940年)は、ディクスン・カー(カーター・ディクスン名義だが)の長編中でも知名度は底のほうだろう。 1956年に翻訳されていたが、1999年に新樹社版[i]が出版されるまで、かけねなしの幻の長編だった。それが現在では創元推理文庫[ii]にまで入った。 一向知られるところがなかったのは、内容も関係している。カーには珍しく、これといった不可能トリックが用いられていない。それらしきものは出てくるが、その謎解きは実にもって何と言うこともない代物である。また、それに代わる魅力的な謎や伏線の妙なども感じられなかった。 従って、個人的にも初読時の印象は、…