(収録短編の幾つかの結末を明かしていますので、ご注意ください。) ジョン・ディクスン・カーの初の短編集は、1940年にカーター・ディクスン名義で刊行された。処女作刊行から十年目というのは、早いのか遅いのか。もっとも、カーは最初の五年間ほどは、ほとんど短編小説を書いていない(というか、買い取ってもらえなかった?)。それと、ディクスン名義での出版の理由は何だったのだろう。1940年には、同名義で『かくして殺人へ』と『九人と死で十人だ』の二冊が公刊されている(ただし、『かくして殺人へ』は、イギリスでは1941年刊だったようだ)[i]。一方、カー名義の本は1940年には『震えない男』一冊きりしかない。…