(本書の犯人とトリックを明かしているほかに、アガサ・クリスティの『オリエント急行の殺人』の内容について、注で言及しています。) フェル博士のカムバックを祝した、前作『死者のノック』(1958年)から一転して、再び歴史ミステリに戻ったのが本書である。しかし、前作とそれほど雰囲気が変わっているわけではない。歴史ミステリといっても、どんどん時代が下っていっており、『火よ燃えろ!』の1829年から、さらに進んで1865年が舞台となる。『死者のノック』とは、百年ほどの隔たりがあるとはいえ、『ビロードの悪魔』のごとき騎士道小説のような舞台背景ではなくなっている。 よく知られているとおり、『火よ燃えろ!』(…