(本書のトリックその他のほか、F・W・クロフツの長編の密室トリックを明かしています。) 『バトラー弁護に立つ』(1956年)は、『疑惑の影』(1949年)以来、パトリック・バトラーが7年ぶりに登場したミステリである。といっても、バトラーが探偵を務める作品は、これら二作だけだが。それに、同じく『疑惑の影』に出ていたフェル博士は、どうしてしまったのか。不遇な扱いに涙が出る。 本作がフェル博士向きでないことは事実だ。1950年代以降、カーの仕事の中心は歴史ミステリになったが、恐らく、資料集めなどを含めて執筆に時間がかかるのだろう。その反動か、現代ミステリのほうが、歴史ミステリ以上にパズル要素が減って…