(犯人やトリックを明かしてはいませんが、ところどころ真相に触れています。) 『ロンドン橋が落ちる』(1962年)[i]は、前年の『引き潮の魔女』に続き、歴史ミステリとして発表された。『ビロードの悪魔』(1951年)以来、カー名義では、現代ミステリと交互に出版してきたのに、どうしたことだろう。 多分、『引き潮の魔女』の舞台が1907年で、もはや歴史ミステリと言いにくいほど現代に近づいてきたので、もっと時代小説らしい作品を書きたくなったのだろう。 そう考えると、本書の設定が1757年で、『ビロードの悪魔』の17世紀末ほどではないが、カーの歴史ミステリのなかでも古い時代を扱っている理由がわかる。ナポ…